寿司の名店、天ぷらの名店、鰻の名店。。。
和食の名店も色々有れど、鴨料理といえば滋賀県長浜の鳥新だ。
そもそも関東では日常生活で鴨を食べる習慣がない。
一方関西では鳥肉屋に鴨も売られていたりする。
京都で生まれ育ったこともあり、私は鴨が大好物だ。
時々鴨肉を取り寄せたり買いに行っては鴨鍋や鴨ロースを頂いている。
夫の実家への帰省にあわせて、義母が鳥新を予約してくれていた。
そういうわけで昨日の昼食に鴨鍋のコースを頂いてきた。
鳥新は1834年の老舗料亭で、鴨の提供は冬場のみ。夏は鰻、どじょうを提供する。
仲居さんのお話によると、中でも1月、2月の鴨が美味しいようだ。
偶然にもいい時期に訪れたことになる。
趣のある店構えだが、立地は意外にも駅からすぐの町の中心地だ。
我々は二階の手前の個室へ通された。
4畳半ほどありそうな床の間付きのゆったりした個室だが、隣の部屋とはふすまで仕切られているだけなので、宴会をしているらしい団体客と仲居さんの賑やかなやりとりが丸聞こえである。
だがそんなゆるい雰囲気も、地方ならではといった感じで、我々3名は時折にんまりと顔を見合わせていた。
さて、肝心の料理だが、最初に鮒のお刺身が出てくる。
鮒を刺身で食べるのは衝撃だったが、まったく臭みがなく、歯触りが少しこりこりとしていて不思議な美味しさであった。更にこの鮒の刺身の上に、卵が散らされているのである。これを「鮒の子まぶし」というらしい。
これをわさび醤油でつついているうちに、仲居さんがひょうたんに入った出汁を錫でできた特注の美しい鍋に投入し、野菜や鴨を手際よくくべていく。
驚いたことに鴨はロースとつみれだけではなく、肝や軟骨など様々な部位を頂ける。
部位ごとに触感や味が違うので、飽きることは全くなく、感嘆し通しである。
そして、主役の鴨だけではなく野菜や湯葉、豆腐などの具材もひとつひとつが飛びぬけて美味しいのだ。
特に印象に残っているのはネギである。甘味が強く、ねっとりとしていて、鴨の出汁を吸ってえもいわれぬ味わいである。
焼き豆腐は香ばしく、火の香りがする。野菜の隠し包丁なども計算されつくされていて、全ての具材が引き立っている。
締めには丸いきれいなお餅が人数分供される。これをとろとろになるまで煮たてて、御つゆの最後の一滴まですするころには幸福感でいっぱいである。
コースの最後にはデザートが付く。いちじくのゼリーだった。
みずみずしいいちじくとすっきりとした自然な甘みのゼリーで、満腹でも美味しく頂ける。
鳥新の鴨は昔は琵琶湖からとっていたのだろうが、今は琵琶湖は禁猟なのでよその天然の鴨を仕入れているそうだが、品質に満足できないものは返品するこだわりようだ。
なお、鴨は鉄砲で仕留めるのではなく、網を使って捕るそうだ。
老舗で郷土料理を食べるのは、一つの文化を味わうことでもあり、忘れがたい味わいとなった。
いつかまた訪れる機会があることを願う。